「夏の脳疲労と、やる気が落ちるときードーパミンと植物のはなし」
皆さんこんにちは。ベルビオマルシェです。
「夏になると、なんとなく気力がわかない。」
そう感じる方は、意志が弱いのでも、怠け者でもありません。夏という季節が、脳の神経伝達物質のバランスを変えてしまう…
そこに、生理的な理由があります。
今回は、「やる気」という感覚の背景にある脳の化学と、植物薬理の視点からそこに働きかけることのできる植物についてお伝えします。
前回のコラム「夏の疲労を和らげるヘアケアとの関係〜植物の鎮静作用を活用〜」も是非合わせてご覧ください。
「やる気ホルモン」の、もう少し正確な話
ドーパミンは「やる気ホルモン」と呼ばれることが多いですが、より正確には「報酬予測に関わる神経伝達物質」です。
何かを達成したとき、好きな香りに触れたとき、楽しみにしていることが近づいてきたとき、こういった瞬間にドーパミンは分泌されます。「これは良いことが起きそうだ」という予測シグナルとして脳の報酬回路を活性化させ、私たちに「動く理由」を与えます。
ドーパミンが機能しているとき、私たちは何かに向かって始める、続ける、楽しみにする、という状態でいられます。逆に、ドーパミン分泌が低下すると、「始める気になれない」「何をしても気持ちが乗らない」「先のことが考えられない」という感覚が生まれます。
さらに、ドーパミンには「動く理由を与える」だけでなく、「動作そのものを開始する」という側面もあります。脳の黒質から線条体へと伸びるドーパミン経路は、起き上がる・歩き出す・手を伸ばすといった自発的な動作の実行に深く関わっています。「気持ちはあるのに、体が動き出せない」という感覚——それは意志の弱さではなく、脳が「動け」という信号をうまく出せていない状態として理解できることがあります。
夏に多くの方が感じるあの「なんとなくだるい、動けない」感覚…その一端は、ここにあります。
夏にドーパミンが落ちるメカニズム
ドーパミンは脳内でどのように作られるのでしょうか。
食事から摂取したアミノ酸の一種「チロシン」が、チロシンヒドロキシラーゼという酵素によって「L-DOPA」に変換され、そこからさらに「ドーパミン」へと合成されます。
この酵素、チロシンヒドロキシラーゼの働きを抑制するのが、ストレスホルモンとして知られる「コルチゾール」です。
そして、夏はコルチゾールが上がりやすい季節です。
屋外の猛暑と冷房の効いた室内を行き来する激しい温度差、紫外線による酸化ストレス、寝苦しさによる睡眠の質の低下——これらが自律神経に慢性的な負荷をかけ続け、コルチゾールが高い状態が持続します。コルチゾールが慢性的に高くなると、チロシンヒドロキシラーゼの活性が低下し、ドーパミンの産生量が減少します。

「暑いから気力がわかない」というより、「夏の環境が引き起こした連鎖が、ドーパミン産生を減らしている」——それが夏の気力低下の正確なメカニズムのひとつです。
連鎖を知ると、対策が変わる
少し整理すると、夏の気力低下はこのような連鎖として起きています。
夏の環境(温度差・紫外線・睡眠の質低下)
→ 自律神経の過負荷
→ コルチゾールの慢性的上昇
→ チロシンヒドロキシラーゼの抑制
→ ドーパミン産生の低下
→ 気力・集中力・意欲の低下
この流れを知ると、「意志の力で乗り切ろう」とすることがいかに難しいかがわかります。産生する酵素の働きが抑えられている状態では、頑張ろうとしても出力が追いつかない。
必要なのは、この連鎖のどこかに、別のアプローチで働きかけることです。
ムクナ豆(Mucuna pruriens)という植物
世界には、植物薬理の視点からこの連鎖に関与できる植物があります。
そのひとつが、ムクナ豆(Mucuna pruriens)です。
マメ科の植物で、熱帯・亜熱帯地域に自生します。アーユルヴェーダでは「カピカッチュ」という名で5,000年以上にわたって知られており、特に神経系と活力のサポートとして伝統的に使われてきた植物です。

ムクナ豆が現代の植物薬理の研究で注目される理由のひとつは、その種子に「L-DOPA(レボドパ)」が天然の状態で含まれていることです。
L-DOPAとは、前のセクションで登場したドーパミン合成経路の中間物質。チロシンがチロシンヒドロキシラーゼによってL-DOPAへ変換され、そこからさらにドーパミンへと合成される——その途中にある物質です。
ムクナ豆の種子には通常、乾燥重量の3〜5%程度のL-DOPAが含まれると報告されています。植物の種子にこれほどの濃度でL-DOPAが天然に存在するのは、自然界では非常に珍しいことです。
L-DOPAと脳の関係
L-DOPAは医療の領域でも重要な物質です。
パーキンソン病の治療薬「レボドパ」は、このL-DOPAと同一の化合物です。パーキンソン病はドーパミン神経の変性・脱落によって生じる疾患であり、L-DOPAは血液脳関門を通過してドーパミンの産生を補う目的で医薬品として用いられます。
研究によれば、ムクナ豆に含まれる天然のL-DOPAも同様に血液脳関門を通過できることが示されており、脳内でのドーパミン代謝との関連が報告されています。
ひとつ明確にお伝えしておきたいのは、ムクナ豆はあくまで食品・ハーブです。パーキンソン病をはじめとする疾患の治療を目的としたものではありません。また、L-DOPA系の医薬品を服用中の方や、神経系に関する疾患をお持ちの方は、摂取前に必ず医師にご相談ください。
アーユルヴェーダが5,000年使ってきた理由
現代科学がL-DOPAという成分を同定するより遙か以前から、アーユルヴェーダはムクナ豆を「活力と神経の安定」に関連するハーブとして体系に組み込んでいました。
アーユルヴェーダの伝統的なテキストでは「カピカッチュはヴァータ(風・神経)を安定させ、精神と身体の活力を与える」と記されています。この記述が、現代の神経科学的知見と符合する部分が少なくないことは、植物薬理の学習において最も興味深いことのひとつです。
経験知と科学的解析が、数千年の時を隔てながらも同じ植物の同じ働きに到達している。
ムクナ豆はその好例です。
「朝のムクナ茶」という習慣
アーユルヴェーダでは、カピカッチュは種子をパウダー状にして牛乳やお湯で飲む形で摂られることが多い植物です。ベルビオマルシェでは、そのムクナ豆を、私たち日本人に馴染みの深いお茶の形でお届けしたいと考え、糸島まこと商店の「糸島産ムクナ茶」をご用意しました。
福岡県糸島市の豊かな自然のもとで、農薬・化学肥料を一切使わず丁寧に育てられたムクナ豆を使用。ノンカフェインで残留農薬373項目不検出。L-ドーパをはじめ9種の必須アミノ酸を含む18種のアミノ酸が検査によって確認されており、毎日安心して続けていただける一杯として設計されています。

香ばしく飲みやすく、麦茶のような親しみやすい味わいです。温かいお湯で数分浸出させるだけ。朝の習慣に加えた方から「なんとなく一日の始まりが違う気がする」という声があります。
もちろん、効果を約束するものではありません。ただ、5,000年の歴史の中で「身体が求めるもの」として受け継がれてきたものには、現代科学が少しずつ解き明かしてきた理由があります。
更年期前後の女性への、頼もしい味方
ここまでは夏の気力低下という文脈でお話ししてきましたが、40代以降の女性にとっては、もうひとつの視点が重なります。
エストロゲンとドーパミンは、脳内で互いに調節し合う関係にあります。エストロゲンはドーパミンの合成酵素(チロシンヒドロキシラーゼ)の活性を高め、ドーパミン受容体の感受性にも影響を与えます。更年期にエストロゲンが低下すると、この相互調節のバランスが変化し、ドーパミン産生が低下しやすくなることが神経内分泌学の研究で示されています。
つまり40代以降の夏は、「コルチゾールによるドーパミン産生の抑制」に「エストロゲン低下によるドーパミンバランスの変化」が重なりやすい季節です。更年期前後に「以前より気力が続かない」「集中力が戻らない」「気持ちが乗らない日が増えた」と感じる方が多い背景には、このような脳内の複合的な変化が関係していることがあります。
睡眠の質と、肌の夜間修復
ドーパミンは概日リズム(体内時計)の調整にも関与しており、産生が低下すると睡眠の質に影響が出ることがあります。更年期以降に多くの方が経験する「眠りが浅い」「夜中に目が覚める」という変化との関わりも、研究の中で示されています。
深い眠りの中で分泌される成長ホルモンは、皮膚細胞の修復と線維芽細胞によるコラーゲン合成に重要な役割を担っています。「40代以降、肌の回復が遅くなった気がする」という感覚の一部は、エストロゲン低下の直接的な影響とともに、睡眠の質の変化という経路でも起きていることがあります。
また近年の研究では、皮膚の線維芽細胞やケラチノサイトにドーパミン受容体が発現していることも報告されています。「ストレスが肌に出る」という経験的な感覚を、神経内分泌の言語で読み解こうとする皮膚神経学(ニューロダーマトロジー)という分野が、その接点を少しずつ解き明かしています。身体の中で起きていることは、思っている以上につながっている——そのことを、皮膚は静かに教えてくれています。


糸島まこと商店 ムクナ茶(3gx15包)ノンカフェイン
深く香ばしく焙煎したムクナ豆1gと、栄養をしっかり残すよう浅く焙煎したムクナ豆2gをブレンド。ムクナ豆を100%使用し、他には何も加えていません。二年の試行錯誤の末にたどり着いた焙煎の比率が生む、香ばしくスッキリとした味わい。お湯を注いで数分の、新しい美容習慣に。
植物薬理応用学という視点
今回ご紹介したムクナ豆のL-DOPAは、植物が人体の生化学と直接対話できる仕組みの好例です。
「なんとなく身体に良さそう」という感覚から一歩進んで、「どの成分が、どの経路で、どう働くか」を理解することで、植物との関わり方が変わります。夏の気力低下ひとつとっても、そのメカニズムを知ってから植物を選ぶのと、感覚だけで選ぶのでは、受け取れるものが違ってきます。
Green Medicine BASICでは、精油・ハーブ・植物成分の薬理メカニズムを、日常のセルフケアに活かせる形で学びます。「ムクナ豆のL-DOPAがなぜ脳に届くのか」「コルチゾールとドーパミンの連鎖をどの植物でどう緩めるか」——こうした問いに、科学的な言葉で答えられるようになることが、植物薬理応用学の出発点です。
夏の気力低下は、頑張りが足りないのではなく、脳の化学的な状態が影響しています。植物の力を借りながら、この季節を自分の身体のリズムに合わせて過ごしてみてください。
※ 本コラムは情報提供・教育目的で作成されています。特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。L-DOPA系の医薬品を服用中の方・神経系疾患をお持ちの方は、ハーブ摂取前に必ず医師にご相談ください。健康上のご不安がある場合は、専門家にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました!ご質問やご感想はいつでもお気軽にどうぞ。メールマガジンもぜひご登録ください❤️
